倍音には整数次倍音と非整数次倍音がある
水を飲んだ時美味しいと感じるのは天然水でしょうか?
それとも何度も沸騰させて蒸留した濁りのないH2Oとなった水でしょうか?
天然水にはミネラルが複雑に配合されています。
純粋な水H2Oよりもいろんな雑味がある方が美味しいと感じるのは興味深いことです。
クラシックの合唱や弦楽四重奏のように濁りが少なく美しく響く音楽もありますが,ロックやポップスの世界ではシンバルの響きや摩擦音を強調したり,かすれ声を使ったり,わざと濁った音を少しプラスして良いと感じる場合があります。
桑田佳祐,玉置浩二もそうした音を使って心に迫る歌声を作るように思います。
ドラムのシンバルを叩いた時に発生する音や,波の音,木の葉が擦れ合う音などは非整数次倍音と呼ばれます。
非整数次倍音を突き詰めると,ホワイト・ノイズいわゆる砂の嵐という放送テストのようなシャーっというノイズになります。
クラシックギターは整数次倍音が多いのに対して,フォークギターは鉄弦と鉄のフレットがぶつかる非整数次倍音も発生しています。それがまたフォークの良さとして評価されます。
ギブソン・ギターの発するジャキジャキした感じが好きだという人もいるかもしれません。あれこそ非整数次倍音の例ですね。
ピアノでペダルを踏んでから,静かに鍵盤を押して音を出すと純粋な整数倍音が聞こえてきます。
しかし,速く強く鍵盤を叩くとハンマーから発するキンッという打撃音が最初に聞こえます。それこそ非整数次倍音をプラスしているように思えます。
フルートはかなり整数次倍音が多く,非整数次倍音が少ない楽器ですが,世界的に有名なフルート奏者の多くは摩擦音であるブレスの音を組み合わせる事でより表現力の高い演奏をしているように思います。
私の研究結果では整数次倍音と非整数次倍音のブレンドこそが多くの人を惹きつけると感じます。
ヒット曲もそうだと思います。桑田さんも玉置さんもドラムが強いバンドの伴奏よりも,ギターやピアノだけのバラードの方がヒットしている例があります。
沖縄三線は非整数次倍音が多い楽器です。それで,ボーカルも濁声(ダミ声)ではキツすぎるので,女性ボーカルの高い綺麗な響きの「涙そうそう」のような整数次倍音の声が合うように思います。
ブルース・スプリングスティーンは非整数次倍音が多い声だと思いますが,彼のピアノ弾き語りがまた良いのです。もちろんこれは好みが関係していると思いますがバンドで聞くと私は少し疲れるのです。
ギターのボディの共鳴が作り出す整数次倍音と,金属弦と金属フレットがぶつかって作り出す非整数次倍音を混ぜ合わせて出来るのがアコースティック・ギターの音色だったのです。
この音に多くの人が魅了されるのは, 2種類の倍音のブレンドが作り出す魔法なのかもしれません。
実はギターは調整によってこの整数次倍音と非整数次倍音のバランスを変えられるのです。つまりギターは同じでも出てくる音の印象を調整によって大きく変えることが出来るのです。
私が人生の中でも感動した音の一つはハワイのマウイ島のハナ・ビーチでゴザを敷いて木陰で昼寝をした時の音です。ゆったりしたビーチの波の揺らぎのある音と小鳥のさえずり,優しく風がそよいで木の葉が擦れる音以外は車の音も飛行機の音も何もしないのです。
基本的に人がいない場所ですから。自然界の音しかないのです。整数次倍音ではないのですが,間違いなく癒されるサウンドなのです。
人類がハーモニーを生み出しそこから純粋に作られる純正律のハーモニーは整数次倍音の美しさです。
でも,非整数次倍音も癒しのサウンドなのです。これらが混じり合うサウンドこそ多くの人にとって心地良いと感じる倍音ではないかと思えるのです。
ギターの調整の話で言えば,フレットと弦がぶつかる際に出来るだけ非整数次倍音を出さないようにするか? 少しフレットの凸凹を作ってわざとぶつけて非整数次倍音の音を増やすか?
この調整によってギターの音色は変化出来るのです。
クラシックギターの音色が好きだという人とフォークギターの音色が好きだという人の好みの違い,フォークとロックの好みの違い。
ドラムのシンバルが入った音楽が好きという人と出来るだけシンバルが入らない方が好きという人の違いももしからしたら,この整数次倍音と非整数次倍音の響きの好みの違いなのかもしれません。
はるか昔に音に鋭いギターの生徒さんと交わした会話が今も印象に残っています。
「ギブソンは音に濁りがあるからいいですよね。」
彼はサザンジャンボを使っていました。でもそれはギブソンの14-20Fの部分が整えられてなくてぶつかっていることで作られる非整数次倍音が多いという個性だったのです。なので,ギブソンもフレットを整えればもっと清らかな音を引き出せるのでした。
2種類の倍音のブレンドが心地良さを作り出す。倍音は奥が深い。
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